新しい高校で寂しい思いをしてた頃、ある日たまたま、この自転車置場を出たとこで学校帰りの幼馴染に会ったんです。幼馴染は毎日ここに自転車置いて電車通学してたから。それで、ひさしぶりー、ってなって、その日は一緒に帰りました。
この先の道路、国道16号線っていうんですけど、それを少しのぼった先に貸しレコード屋があって、私はよくそこで借りてきた曲をカセットテープにダビングしてました。あ、ダビングってもう死語ですよね……。とにかくその日もレコード屋の帰りだったんですけど、幼馴染に「よかったらこれ聴く?」っていつも持ち歩いてたテープを貸して。たしかWham!の「The Edge of Heaven」だったと思います。……そういう時代だったんでしょうね、洋楽に憧れて、みたいな。私にとってはそのレコード屋が、世界への窓口だったんです。
それから、私は学校が終わるとよくこの自転車置場に来てました。ここで待ってたらまた会えるかも、って思って。でも「待ってた」とか言えないじゃないですか。それでたまたま何かの帰り道で遭遇したフリして、うまく会えた日は、並木のほうまで一緒に帰ったりしました。自転車同士だからそんなに長く会話もできないんですけど、いい曲を見つけたらテープを渡したり。あっちはどう思ってたのかわからないですけどね。なんとなく私の趣味に合わせてくれてただけかもしれないし。でもそれがかろうじて、私たちの接点になってました。
ここで待っててもなかなか姿が見えない時は、自転車置場を抜けた先、歩道橋のたもとにお地蔵さんが並んでるとこがあるんですけど、そこで待ってたりもしました。そのお地蔵さんのところまで来てもらえますか。
→【66】