未分類1989.04.01

16号線……この「境界」の向こうはオトナの世界でした。
あの先の信号、見えますか?

あの交差点のところ、今は学習塾になってますけど、角打ちがあったんです。
角打ちって知ってます? かくうち。オトナたちが立ち呑みする場所です。
たぶん地元のおじさんたちなんでしょうけど、知らない人たちがお酒呑んでて。それまで私のいた世界とは全然違う空気感があったんですよね。自分もいつかあの中に混じることがあるのか、それとも通り過ぎていくだけなのか……。どんな種類のオトナに自分はなるんだろう、ってことを、その前を通るたびに漠然と想像していました。
実際には、私がオトナになる前に、その角打ちはなくなっちゃったんですけど……。

オトナになろうとして焦ってた時期だったかもしれません。

この町は、秘密の楽園のような場所かもしれないってたまに思うんです。
16号線の内側の、その楽園にいるかぎりは、安全で、安心できる。守られている。心地よいはずのそのことが、あまりにも当たり前になりすぎていて、だからその楽園を出ていった人たちに遅れをとったような気がしていたのかもしれない。
子どもっぽい考えかもしれませんね。
まあ実際に子どもだったから……。

高校を出てから私は、県内の大学に進学して、ついにこの「境界」を越えて、電車を使うようになりました。
駅まで行ってみましょうか。
あと少しだけお付き合いください。

駅へ行くにはふたつ道があります。
ひとつは、歩道橋を折れ曲がるように下りてすぐ、通学路になっている細い道を歩いていくとたどりつきます。
もうひとつは、角打ちのあった交差点を左に曲がってもOKです。人の流れについていけば大丈夫なはず。ただし、そっちの道は車や自転車に注意してくださいね。

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